【ウェブアニメ探訪】「もうひとつの夜想曲」のこと
今回は、光川まぼろさんの「もうひとつの夜想曲」をピックアップします。本作は、2007年末開催のFlash上映イベント出品作「夜想曲」の4分バージョン(ロングバージョン)ということで、今年(2008年)の5月、まぼろさんの個人サイトで発表されました。両作とも「たえちゃん」と言う一人の少女のクリスマスの夜のひとときの表情を切り取った叙情的な作品です。非常に繊細な少女の表情と独特のやわらかい雰囲気のアニメーションで前作「夜想曲」も大好きな作品でしたが、その「夜想曲」の別バージョンと言う事で、その製作意図や目指すところなどに作者のアニメーション制作に対する姿勢みたいなものが伺われ、一段と興味が湧きあがってしまいました。そんな2作品の違いや、そのアニメーション制作に込められた、まぼろさんの想いなどを中心に伺ってみたいと思います。
【光川まぼろ/プロフィール】
昭和43年生まれ、O型の獅子座。東京都出身。東京芸術大学卒業後、ギャラリーなどで現代美術を経験。2003年より趣味でFlashによるアニメーション制作を始める。2008年4月、クリエイターとビジネスユーザーをマッチングするをコンセプトに立ち上げられたサイト「Biz−R−」のコンペにて、Flashアニメーション「そらを見送る」がグランプリを獲得。
◆光川まぼろの作品性
__まぼろさんは「たえちゃん」というキャラクターに拘って作品作りをされていますね。それは、どういったところから来たものなのでしょうか。
原体験とか、幼児体験に対して興味があります。人がどうやって育ったかという事に関して執着を感じていて、多分、起源をたどるのが好きなんだと思います。「社会のイロハは砂場で教わる」、みたいな考えで幼児のお話をつくりたいというのが、もともとの発想の原点です。
__「たえちゃん」を女優のように演出したいという話が、サイ トにありましたが、アニメーションを作るうえでのアプローチとして、とても面白いですね。珍しいスタイルと感じますし。
ありがとうございます。
大物女優さんって作品ごとに違う魅力を見せてくれる気がします。
ストーリーより演技に興味があるようです(笑)。
__「たえちゃん」を動かす上で、大切にしていることって?
そうですねノ。いろいろな物語を通していきながら「たえちゃん」がどんな人か、見る人によってイメージを膨らますことが出来るように作りたいと思っています。
どこにでもいる普通の無個性な人として、個々の作品イメージから独立した存在として…とか、身近なとこで「別の時間を生きている」ように感じてもらえたらと。
__俗っぽく言ってしまうと、キャラクターアニメーションって、キャラの個性で押していく作品に成りがちだと、つい僕などは思っちゃうんですが、まぼろさんの作品を「優しい」と感じるのはそういった視点からなのかもしれませんね。「たえちゃん」を通して、状況を含めた空気感みたいなものを感じ取って欲しいというのが、まぼろさんの作風ということですね。
まさに「状況」を読み取っていくような感じで、視聴する人が、気になって何度も見返したくなるような作品を作って行ければと思っています。
例えばCDとかでノ今日はこの気分、今日はこの気分と、曲を選ぶように、日によって好みの作品が変わるような。10人いたら10人の人生が投影出来るような普遍性のある構成を持ったショートアニメに出来たらいいです。
どの程度具体的な物語に仕立てるかは、現在進行形なので自分でもよくわかっていませんが、今はただ実践あるのみかな…と思っています。
◆イベントでの公開
__僕が初めてまぼろさんの作品を知ったのは2006年のスラッシュアップのオフラインイベントの出品作「そらを見送る」だったんですが。イベントには、どういった経緯で?
フラッシュボムというイベントを「2ちゃん」で知りまして……なんか楽しそうだなあ…と。
__作品制作ありきでの出品ではなく、イベントに出品するために制作されたというコトでしょうか?
いえ。制作途中までは意識してなかったんですが…完成間際に、スラッシュアップのイベントが近いのに気づきまして、せっかくなので試しに応募してみようと思いました。好きに作ってはいてもやっぱり、作品としてどうなのか気になりまして。
__「そらを見送る」が、まぼろさんにとって…と言うか「女優・たえちゃん」にとって最初の作品になるんですか?
お風呂のアニメが最初ですね。
女優としての初作品は、入浴シーンになってしまいました(汗)。
__個人サイト「まぼろんち。」で常時公開されている短編ですね。
確か「試作02」とタイトルが付いていました。
はい。「試作01」は、動作確認とか実験をちょこちょこ作りためた脈絡のないものをまとめたものです。

__それで翌年2007年の年末のスラッシュアップでは「夜想曲」を出品されたわけですが。
そうですね。実は年末、用事がありまして、出すつもりではなかったんですが、無理して出しちゃいました。
一週間ちょっとしかなかったのですが、もしアニメ制作を仕事としてこなすとしたら、どれくらい出来るのか試したかった、ということもあります。とにかく完成出来る事を最優先にしました。
__クリスマスの設定ですね。
即興で何かつくれないかなあノと考えまして、食事シーンのみをずっと見せようと思い立ちました。ほとんど「試作01」の食事シーンの応用で。あと「そらを見送る」の最後のカットの滑り台のシーンのたえちゃんの動きが短時間でうまくいって、味をしめたところもあって、演技(動き)をもうちょっと追求してみたいという気持ちがありました。
ちょうどその前に、ある大きな絵本コーナーで流れているアニメを、たえちゃんと同じくらいの子が、食い入るように見つめていて、口をへの字にして今にも泣きそうな姿を目撃しまして。いつか、そのイメージを制作で使いたいなあと思っていたんです。
◆「もうひとつの夜想曲」とまぼろ作品の制作秘話
__で、今回「もうひとつの夜想曲」を作られた。これは「夜想曲」に不満があったということですか?
いえ。むしろ収穫でした。「夜想曲」は、実は初めから漠然と親と子の食卓シーンの考えはあったんですが、とても間 に合わない、ということでたえちゃん一人にしました。
でも一人にしたことで、見る人が2分間退屈しないだろうかと気がかりでしたが、思い切って一人で食事をさせたことで孤立感が強まり、テレビとたえちゃんとの間に出来る閉じられた世界が強調出来たと思いました。
__そうですね。時間が無くて、手が掛けられなかったようには思いませんでしたが、そう言われてみると、無駄な部分が一切無いというか、非常にシンプルな作品ですよね。
ただこれだと、後半の泣きが、「親が家にいなくて一人さびしく泣いている」「のみ」に意味を誘導してしまう心配がありまして、これが ちょっと気になっていました。
もし、親がいたらどう見えていただろ う?と。物理的な不幸よりコミュニケーション上のせつなさを描きたかったので、違うパターンで見てみたい。それで、迷っているなら、両方やっちゃえ!という感じでした(笑)。
__「もうひとつの夜想曲」というタイトルは?
パラレルな感じで、別の年のクリスマスのつもりで作ったので、4分バージョンとして「もうひとつの〜」という風にしました。
__「夜想曲」との大きな違いは、やはり両親の存在ですね。
最初、親キャラはたえちゃんに負けないくらい、いろいろな演技をさせて存在感を出してみたんですが、「夜想曲」のような「テレビとたえちゃんとの間に出来る閉じられた世界」のようなイメージではなくなってしまいまして、製作中は結構悩みました。
__「夜想曲」でも見方によっては、両親の存在は意識できますよね。けれど限定する要素もある。今度は両親が登場することで広がりも出来ますが、別の意味で、新たな「限定」みたいなものも生まれてしまいますね。その辺りが難しそうですが。
そうですね。「夜想曲」より要素が沢山入って物語の情報量が増えたわりに、4分間カメラを動かさない長回しが逆にアダとなって、ポイントが散漫な何の特徴もない食卓シーンになってしまいまして、これは不味いということになりました。側に親がいるということがわかりさえすればそれでいいんだ、という考えに落ち着きまして、親の表情をほとんど削ってみたら、すっきりイ メージがまとまりました。
何の演技をカットすれば何が惹きたつかという問題意識が、今回の制作で 少し自覚出来た気がします。

__「もうひとつの〜」で使われなかった両親の画像を拝見させて頂きましたが、あそこまで出来ていて、ばっさり切るのも勇気がいりそうですね。
見て見ぬふりをしてズルズル進めていたんですが(笑)、だんだん楽しく無くなってしまい、最終的に踏ん切りがつくまで、すごく時間がかかりましたね。
__サイトでも、その辺りの制作に関する苦労話なども文章化されていますが、サイトを見たファンの方から反響はありますか?
母親の表現を抑えて正解だとする意見が多くてほっとしてます。あと内容に対する細かな解釈が真逆なものまでありまして興味深かったです。母親が部屋から出て、たえちゃんはほっとしているとか、寂しいとか。
大枠のシチュエーションをハッキリしたことでたえちゃんの変化する気持ちを母親との関係で具体的に読み取ろうとしていただけたようです。どれだけ話の筋を限定すべきかとか迷いますが、試行錯誤の部分も作品に出していきたいと思います。
__アニメ表現ではBGMも重要な役割を持っていますが、まぼろさんの場合のこだわりは?
映画のサウンドトラックのような気持ちで使えたらと思います。
音楽がもつ緩急の変化をドラマチックに利用出来れば、なんでも挑戦したいと思っています。
__ところで、唐突な質問で恐縮ですが…まぼろさんはいつ頃から、どの様にアニメーション制作をされてたのか伺っていいですか。
はい。モーショントゥイーンの楽しさにとり憑かれてからアニメを作り始めたんですが。それが2003年頃ですね。
それ以前は主に写実の資料として写真を見ながら描いたりしていました。一時期、画廊でデジタルフォトを使った現代美術とか、絵を描いて売ったりしていました。アニメーションは、adobe(アドビ)FlashとPhotoshopを使って作っています。アニメのキャラクターや光の効果はFlashです。Photoshopは背景用に使いますが「夜想曲」と「もうひとつの〜」はFlashのみです。アニメをやる前はデジタルフォトを加工する時にPhotoshopを使っていました。
__なるほど。簡略化されたキャラクターの演技が心を打つのは、しっかりした写実に裏付けされているのが分かりました。Flashアニメと言うとフラットな画面をイメージしてしまいますが、まぼろさんの作品は、いわゆるFlashアニメ作品とは異なるイメージありますね。
映画のような陰影とか情緒性のある景色などに興味を持つと同時に、子供の頃描いていた絵本に出てくるような素朴で可愛い絵も捨て難く、写実表現と主観的表現の両立を考えていますね。光などのエフェクトは、主観的な部分や、手づくり感も残していきたいと思っています。
アプリケーションは画材として使っているのでこれ一本というこだわりは特にないので、今後、必要に応じて使い分けていくかもしれませんが、Flashはマニュアルカメラのような位置づけで考えています。組み合せ方次第でいろいろな表情に化けてくれます。仕掛けを作っておいてそれが意図どうりに動いてくれると楽しいですし、
でも完全自動ではないので逆に失敗することで予想外な動きをすることもあり、新鮮です。
__では最後に、今後作りたい作品などについて聞かせて頂けますか。
たえちゃんをメインとして、だだんだん役者さんを増やして「子供の世界」を描きたいんですが、その外側にある大人の世界も何らかの方法で描きたいと思っています。
それで、いつかそうしたPVを「作品集」的に1本のアニメーションに出来たら嬉しいです。それこそCDの楽曲ように、気分によってストーリーを選んで観るような。
__次回作は「雨をモチーフにしたもの」とブログで書かれていましたね。
情緒的なシーンを作りたくて、夕日もそうですが、雨も欠かせない気がしまして。今後何度も繰り返しやってみたいモチーフです。音も出ますし、濡れま すし、じめじめしますし、暗雲立ちこめますし、そういう体感的部分にとても興 味があります。
それと「もうひとつの〜」でテーマ的に果たせなかった、母とたえちゃんの「初絡み」をやってみたいと思っています。
それから、何をするにも初めてなので…悩みとか制作過程など、今後も引き続きブログでアップしていこうと思っています(笑)。
インタビューの最後に語られているように、まぼろさんのブログにはアニメーション製作途中の苦労話や悩みなどが比較的「あからさまに」書かれている印象です。僕としては、作品も大好きですが、そうしたブログなどを通して感じられるまぼろさんのお人柄にも興味を持っていたと言うか、好感を抱いていました。
なので、今回こうしたインタビューを受けて頂けたのは大変嬉しかったと共に、内容的に既にブログでご自身が語られているようなお話になってしまわないかと危惧しました。本当はもっといろいろなお話を伺いたかったのですが、限られたスペースと言う事もあり、読者の方が満足いくインタビューになっていたか自信はありません
が、今回の記事が「まぼろ作品」を知るキッカケになって貰えれば、それが一番かもしれません。
まぼろさんには、今回いろいろ無理を言ってインタビューを受けていただき、本当にありがとうございました。新作、また楽しみにしています。
【関連リンク】
・まぼろんち。/光川まぼろ
http://blogs.dion.ne.jp/maboro_mitukawa/
・そらを見送る
http://www.bizrnet.com/UserMovie/FILEID20145
・夜想曲
http://blogs.dion.ne.jp/maboro_mitukawa/archives/6622676.html
・もうひとつの夜想曲/光川まぼろ
http://blogs.dion.ne.jp/maboro_mitukawa/archives/7194031.html#more
・ニコニコ動画>>もうひとつの夜想曲
http://www.nicovideo.jp/watch/sm3751478
・Biz-R-
http://www.bizrnet.com/
・Biz-R->>そらを見送る
http://www.bizrnet.com/UserMovie/FILEID20145
・slashup05 熱冬祭
http://slashup.jp/05/
【mixi「ウェブアニメが好き」コミュ管理人・亜樹28号/20080629-26】
ちなみに、僕が「ウェブアニメ」と称するのは(プロアマ問わず、有料無料を問わず、個人サイト動画配信サイト問わず)Web上で視聴できる作家性の強いオリジナルなアニメーションのことです。
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